景観の問題は、豊な国の問題である。心の豊かさも兼ね備えた豊な国でなければ、景観への関心は生まれない。

戦後は、経済復興を第一に追い求め、生活より仕事を、豊かさより効率を、質より量を求めてきたが、その過程で犠牲にしてきたものも多い。近年、景観問題に再び関心が寄せられているのは、一義的な欲求から多義的な欲求へと価値観が変化してきていることを表している。

都市と農村は多様な魅力を持ち、一方でさまざまな問題を抱えている。景観の魅力と課題もそのひとつであり、美しい自然やたおやかな毎日の生活の背後で、無計画な都市化や過疎化がその秩序を引き剥がしてきた。今後、景観の魅力の最大化と負荷の最小化をめざすためには、その基礎となる学術的研究と、具体的な方法の検討や提言までを含む体系的かつ実践的な方法の研究が欠かせない。

アジア景観デザイン学会は、景観材料にかかわる企業を中心として1997年から開催してきた「九州景観材料研究会」を母体としている。これは、九州大学の故森永健次教授とその遺志を継いだ九州大学佐藤優教授の呼びかけによって、大学、経済産業省、国土交通省、福岡県、福岡市、北九州市と景観にかかわる企業が一体となって、景観の改善をめざす研究会を続けてきたものである。

この活動の中で、さらに基盤となる学術を究め、社会的な発言力を強めるために研究会を学会に発展させよう、という機運が高まり、2004年7月に発起人会を開催し、同年12月にアクロス福岡で第1回大会を開催した。

近年は、アジアの国々で景観問題への関心が高まっており、従来のように単に整然とした景観をめざすのではなく、アジアの景観の魅力を再認識し、アジアの人々の感性に適合した景観のあり方を探る必要性を意識しはじめていた。そこで、はじめから国際学会としてアジアにおける景観の諸課題に取り組む学会として「アジア景観デザイン学会」を発足させるに至った。

[アジア景観デザイン学会の目的]
(1) 景観に関する研究を振興する。
(2) 景観の発展をめざす方法を検討し提案する。
(3) アジアの景観の魅力を認識し、構造化をはかる。
(4) アジアの感性に適合した景観づくりの方法を探る。
(5) 景観改善にかかわる事業を促進する。
(6) 景観の向上をめざす行政の事業を支援する。
(7) アジアの関係機関及び専門家との交流を行う。

アジア景観デザイン学会は、産学官民が一体となって、さまざまな分野と異なる背景を有する識者が集い、自由で実践力を伴うユニークな学会として、人間の生活を豊かにする景観の新たな価値を発信する。